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開発事例

『開発事例』-1 “ACインバータ”の開発

『自動車用ACインバータ』の開発

㈱豊田自動織機の製品に、自動車用ACインバータがあります。自動車用ACインバータは、車載バッテリーの電力を交流に変換して、家電製品の使用を可能にする電子装置です。車内に家電用のコンセントがあれば、ほぼこの装置が内蔵されています。この内蔵タイプは、同社によって世界に先駆けて1995年から生産・販売されました。現在60W~1,500Wの出力をカバーし、T自動車をはじめ国内外の自動車メーカへ供給され、2019年6月現在、累計で3千万台を突破、年間300万台超の販売実績となっています。

私は当時34歳、携帯電話やノートPCといったモバイル機器が普及し始め、ワゴン車を走らせてサーフィンを楽しみに行く若者が増えてきた頃でした。車にコンセントが付いていたら便利だろうと考え、当時商品企画グループのリーダだった私は、メンバーのS君と共に『内蔵型』にこだわったACインバータの商品企画を行いました。ACインバータという装置は既にカー用品店で販売されていたものの、車載装置としては信頼性が低く、たまにしか使わない割に邪魔になるという問題があったためあまり売れていませんでした。

しかし一般の車両はバッテリや発電量は最低限に設計されており、取り出せる電力の余裕はせいぜい100Wです。この電力は、携帯電話やシェーバーの充電ができる程度です。社内の商品企画会議では、「(出力100Wでは)ニーズ不明確」との理由で2回却下され3回目の会議でにやっと承認されましたが、T自動車から唯一搭載を許された車種であるスプリンターカリブ(豊田自動織機で製造されていました)のラインオフまで10か月を切っていました。
すると技術部の開発担当課長は、開発期間が短か過ぎるとの理由で開発を拒否したため、私が技術部に移籍して開発を指揮することとなりました。

慌ただしい開発の日々が過ぎ、製品の姿がほぼ固まってきた頃、我々はXデーの存在を知っていました。コンセント部分の意匠を決める最終日のことです。Xデーを過ぎると、型製作が間に合わず、車両のラインオフも逃してしまいます。
コンセント部分の意匠については、T社へ1ヶ月前から提案してきましたが、T社の担当者間で意見が合わず決まりません。そして迎えたXデーの当日、私はT社の来客小間の汚れたカーペットに土下座をして、ようやく意匠が決まったのです。
これで開発が進み、 我々の『内蔵型』 ACインバータはスプリンターカリブの用品として世界で初めてデビューし、その年のT自動車用品の装着率トップ賞をいただくことができました。(写真1)
この開発を通じて、私は何度も襲ってくる荒波に身を委ね、自ら粘り強く課題解決を探る手法を身につけると共に、開発をやりとげることについて大きな自信を得ることができ、この自信が後続の製品開発へつながっていきました。

その後、私は技術部を離れ次の商品企画に携わりましたが、ACインバータはその後の技術開発により、いよいよ自動車用純正部品として販売数量を格段に伸ばしていくことになります。特にハイブリッド車が発売されてからは、その豊富な発電電力を使って電子レンジやドライヤー、掃除機といった大電力(~1500W)の家電製品をつなぐことが可能となり、キャンプ場等での利用シーンが広がりました。(写真2)

また昨今の大規模震災の折、停電したコンビニやスーパーへ、ハイブリッド車からの電力供給ができたとのことで、少しでも被災地域の方々の助けになれたかとの思いです。

写真1:初期のACインバータ
(100W;ディーラオプション)
写真2:現在のACインバータの例 1500W
写真3:現在のACインバータの例 100W

出典:㈱豊田自動織機ホームペ-ジ

『開発事例』-2 スマートコミュニティ実証実験

(豊田市実証) 『平成26年度 次世代エネルギー・社会システム実証事業成果報告』 より

経済産業省は2011年より、『次世代エネルギー・社会システム実証事業』として、国内4地域で分散型エネルギーシステムを中心としたスマートコミュニティの実証実験を開始しました。

その一地域として豊田市は、トヨタ自動車や中部電力等34団体とともに、創エネ、蓄エネ機器を導入した67戸の新築住宅での地産地消や、暮らしの中における次世代自動車を含む次世代交通システム等の実証実験を行いました。

豊田市実証の一つとして、トヨタ自動車と豊田自動織機は、2011年に発生した東日本大震災を鑑み、停電時に被災地の避難所へ電力を供給する、という課題解決のため、FCバスからの電力供給(V2H※)の実験を実施しました。私は豊田自動織機の担当主査として、トヨタ自動車と連携しながら、開発を指揮しました。

避難所への電力供給のために必要なエネルギーを、「ガソリン」で蓄えるハイブリッド車に比べ、「水素」で蓄える燃料電池車(FC車)を使えば、当然ながら環境にも優しいのです。

我々(当時の豊田自動織機の開発陣)は、ハイブリッド車用に開発した1500W出力のACインバータを6基並列運転して、日野自動車のFCバスから最大9.8kWを連続50時間供給し、電力供給の課題解決ができることを実証しました(2013~2014年度)。

このFCバスは、いざと言う時には威力を発揮してくれることでしょうが、本音では、この用途で使われないことを切に祈ります。

※)V2H:Vehicle to Home(自動車から家に電力を供給すること)

『開発事例』-3 “物流システム向けAI” のお話し

『物流システム向けAI・自律運転』の研究開発

㈱豊田自動織機と(国研)産業技術総合研究所は2016年10月、「豊田自動織機-産総研 アドバンスト・ロジスティクス連携研究室」を設立し、私は初代研究室長に就任しました。
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/pr20161001.html

同連携研究室は、豊田自動織機の保有する高品質・高性能で環境にやさしい多様な製品の開発力、IoT技術や多くのお客様への導入実績に基づく豊富なデータやノウハウに、産総研の高度なロボット技術、AI、データ・アナリティクスなどを適用することで、車両・機器の自律作業を可能とする知能化・自動化や高度なシステムインテグレーションの技術開発を加速し、先進的なロジスティクス・ソリューションの早期実現につなげ、物流現場の課題解決を図ることを目的としています。

両者合わせた研究人員は、10名程度でスタートしましたが、2021年12月現在、40名を超える(兼務含む)大所帯となっています。

https://unit.aist.go.jp/tico-al2022/

設立当初は、主にフォークリフトの知能化・自動化に取り組みました。

フォークリフトは自動車よりかなり低速ですが、荷物や作業者との距離が極端に近いこと、荷物を運んだり積み込んだりする高精度な動作が必要であること、等の自動車の自動運転にはない多くの課題解決が必要となります。

次に取り組んだのは、物流倉庫内のシステム化・ソリューション化です。倉庫内の荷物や作業者の情報をビッグデータとして扱い、ここに付加価値を与え、課題解決につなげようと考えました。

いずれの研究においても共通する最大の課題は、「実装」です。つまり、純粋な学問に基づく研究成果を、研究成果として終わらせず、いかにして製品として「実装」できるか。
良く知られる「魔の川」や「死の谷」だけでなく、異なる専門技術の間には深い溝が横たわります。特にAI研究に用いられる機械学習や統計的手法と、製品開発技術との間には容易に理解し合えないギャップがつきまといます。

私は、産総研との連携研究を通じて、AI技術(機械学習を含む)と製品技術との橋渡しに腐心し、「実装」へ向けた課題解決のノウハウを蓄えました。

出典:産総研ホームページ